「うちにはセキュリティに詳しい人が一人もいない。何かあったらどうしよう」——そんな不安を抱えている中小企業の方は少なくありません。サイバー攻撃のニュースを見るたびに焦るけれど、何から手をつければいいかわからない。外部に丸投げしたいけれど、予算も限られている。この記事は、そうした「セキュリティ人材育成の最初の一歩」をどう踏み出すかを、専門知識ゼロの方でもわかるように整理したものです。
- 社内にセキュリティ担当がおらず、まず何をすべきか知りたい人
- 研修やセミナーの選び方がわからず、比較の基準がほしい人
- 「SECURITY ACTION」など制度の名前を聞いたことはあるが、自社に関係あるか判断したい人
逆に、すでにセキュリティチームがあり、高度な技術研修を探している人には物足りない内容です。

そもそも、なぜ中小企業でもセキュリティ人材育成が必要なの?
「うちは小さい会社だから狙われない」という考え方は、もう通用しなくなっています。攻撃者は、大企業に直接侵入するのではなく、取引先の中小企業を踏み台にして入り込む手口を多用しています。つまり、自社の守りが甘いと、取引先に迷惑をかけて信頼を失うリスクがあるのです。
たとえば、ある製造業の中小企業がメールの添付ファイルからウイルスに感染し、そこを経由して発注先の大手メーカーにまで被害が広がった、というケースがあります。こうなると、取引停止や損害賠償の話にもなりかねません。セキュリティの問題は「ITの話」ではなく「経営の話」です。
さらに、国の制度面でも動きがあります。経済産業省が推進する「SECURITY ACTION」は、中小企業が自ら情報セキュリティ対策に取り組むことを宣言する制度です。これ自体は任意ですが、補助金の申請条件に含まれるケースが増えており、「セキュリティに取り組んでいるかどうか」を外部から見える形にする流れは確実に強まっています。人材不足だからといって後回しにすると、取引機会や補助金の面でも不利になりかねません。

セキュリティ人材がゼロの会社は、まず何から始めればいい?
いきなり専門家を採用したり高額な研修に投資したりする必要はありません。最初のステップは、「社内で一番ITに詳しい人」を1人選んで、セキュリティの基礎知識を身につけてもらうことです。完璧な専門家を目指すのではなく、「何が危険か」「誰に相談すればいいか」を判断できる人を社内に置くことが目的です。
身近なたとえで言うと、消防士を雇うのではなく、「火の元を確認する係」を決めるイメージです。全員が消火活動のプロになる必要はなく、まず「煙が出ていたら気づける人」がいるだけで、初動がまったく変わります。
具体的には、次の3つを順番にやるのがおすすめです。
- 現状を知る——IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が無料で公開している「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」を使い、自社の弱点を把握する
- SECURITY ACTIONを宣言する——「一つ星」は情報セキュリティ5か条に取り組むことで宣言できる。費用はかからず、対外的な信頼の第一歩になる。なお、2026年4月からは「SECURITY ACTION管理システム」が稼働しており、宣言にはGビズIDでのログインが必要となっている。補助金申請との連携にも変更があるため、手続きの詳細はIPAの公式サイトで確認してほしい
- 担当者に基礎研修を受けてもらう——次の見出しで、研修の選び方を詳しく説明します
この3ステップは、予算がほとんどなくても始められます。大切なのは「完璧を目指すこと」ではなく「何もしていない状態を脱すること」です。経営者やマネージャーがこの順番を知っておくだけで、いざというときに慌てず判断できるようになります。
研修はどう選べばいい?失敗しない比較のポイントは?
セキュリティ人材育成の研修は数多くありますが、中小企業が選ぶときに見るべきポイントは大きく3つです。
ポイント1:「誰が受けるか」で内容を絞る
研修には、経営層向け・IT担当者向け・全社員向けなど、対象者ごとに内容が異なるものがあります。セキュリティ人材がゼロの段階では、まずIT担当者向けの基礎コースを1人に受けてもらうのが効果的です。全社員向けの意識啓発研修も大切ですが、それは「判断できる人」が社内にいてこそ活きます。順番を間違えると、研修を受けても「で、うちは何をすればいいの?」という状態のまま終わってしまいます。
ポイント2:「資格取得」と「実務対応力」のどちらが目的かを決める
セキュリティ関連の資格はいくつかありますが、資格取得を目標にした研修と、実務で「インシデントが起きたときにどう動くか」を練習する研修では、中身がかなり違います。人材不足の中小企業がまず必要なのは後者です。資格は知識の証明として将来的に取得する価値がありますが、最初から資格ありきで研修を選ぶと、「試験には受かったけれど実際の対応は何もできない」という状態に陥りやすくなります。
ポイント3:研修後の「持ち帰り」があるかを確認する
研修でよくある失敗は「受けっぱなし」で終わることです。受講して満足し、現場に何も持ち帰らないまま日常に戻ってしまうパターンは、セキュリティ研修に限らず非常に多いと言われています。選ぶ際には、「受講後に自社でやるべきことリスト」や「社内共有用の資料テンプレート」が付いているかを確認しましょう。研修の内容を1人の頭の中だけに閉じ込めず、チーム全体の意識を底上げする仕組みがあるかどうかが、投資対効果を左右します。
なお、費用面では無料のオンラインセミナーから数十万円の集中講座まで幅があります。まずは無料か低価格の入門セミナーで感触をつかみ、自社の課題に合った内容かどうかを確かめてから、本格的な研修に進む方法が、予算の限られた中小企業にはおすすめです。

まとめ——「専門家がいない」は、今日から変えられる
セキュリティ人材育成というと大がかりに聞こえますが、実際にやることはシンプルです。まず自社の現状を診断し、SECURITY ACTIONで対外的に宣言し、1人に基礎研修を受けてもらう。この3つだけで、「何もしていない会社」から「最低限の備えがある会社」に変わります。
研修を選ぶときは、「誰が受けるか」「資格か実務か」「受講後に何が残るか」の3点を基準にすれば、大きく外すことはありません。人材不足を嘆くだけで止まっている状態が、一番リスクの高い状態です。完璧な体制を最初から目指す必要はないので、まずは「火の元を確認できる人」を1人つくることから始めてみてください。
Q. セキュリティ人材がいない中小企業がまず取り組むべき3ステップとは?
A. まずIPAの「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」で自社の弱点を把握し、次にSECURITY ACTIONの一つ星を宣言して対外的な信頼の第一歩を踏み出し、最後に社内のIT担当者1人に基礎研修を受けてもらう、という3ステップです。いずれも予算がほとんどなくても始められます。
Q. 研修を選ぶときに見るべきポイントは何ですか?
A. 「誰が受けるか(対象者)」「資格取得と実務対応力のどちらが目的か」「受講後に自社で使えるチェックリストや共有資料などの持ち帰りがあるか」の3点を基準に比較すると、失敗しにくくなります。
Q. SECURITY ACTIONとはどのような制度ですか?
A. 経済産業省が推進する制度で、中小企業が自ら情報セキュリティ対策に取り組むことを宣言するものです。一つ星は情報セキュリティ5か条に取り組むだけで宣言でき費用もかかりません。補助金の申請条件に含まれるケースが増えており、対外的な信頼につながります。



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